昨今の健康ブームにより、テレビで腸について特集されることが多くなりました。
人々の腸への関心は昔に比べると格段に高まってきています。
腸は食べたものを消化し栄養を吸収したり、ウンチをつくるところぐらいに思っているかもしれませんが、腸にはもっとたくさんの働きがあります。
そして、腸内には数多くの腸内細菌が生存し、我々は細菌と共存しながら健康を維持しています。
腸内細菌が腸内でどのように働いているかを知ることで、カラダにとってプラスが多くなるなら興味を持たなきゃ損ですね。

監修:辻典子先生
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 免疫恒常性研究特別チーム長 上級主任研究員/農学博士
1985年 東京大学農学部農芸化学科卒業
1987年 同大学院修士課程修了、同年 農林水産省畜産試験場研究員
1995年 東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号取得、同年 米国Yale大学School of Medicine博士研究員
1997年 農林水産省家畜衛生試験場 主任研究員
2001年 農業生物資源研究所 主任研究員
2005年 産業技術総合研究所 年齢軸生命工学研究センター免疫恒常性チーム リーダー
2010年 同 バイオメディカル研究部門主任研究員
2015年 同 上級主任研究員、免疫恒常性研究特別チーム長
常在微生物や食物など腸内の環境成分に適応した免疫修飾と免疫恒常性の維持のしくみを明らかにすることで、免疫向上及び健康な身体づくりの技術的なサポートに取り組んでいる。
2020年3月現在

人間の大腸の中にいる腸内細菌はおよそ500種類、50兆個とも言われています。腸の中で種類ごとにまとまり集まっている様子がお花畑を連想させるため、「腸内フローラ(お花畑 flora)」とも呼ばれ、免疫や病気と関係することが分かってきました。
腸内フローラのバランスの乱れは体調に密接に関係しています。
善玉菌の多い大腸は便の状態もよく、便通もスムーズ。
悪玉菌の多い大腸はおならも臭く、大腸がんのリスクも高まります。
また、小腸の中にいる腸内細菌は乳酸菌が多く、免疫バランスが大事であることがわかってきました。
腸内細菌は善玉菌が多いのが理想です。
腸内環境を整える善玉菌にはいろんな菌がいます。善玉菌が酸を発生させることで悪玉菌が抑えられやすくなり、腸内環境が良くなり、便通スムーズ、美肌、免疫力UPに。
- 乳酸菌
小腸の主要な常在菌で、腸内で乳酸を出します。食品では漬物や味噌、チーズ、ヨーグルト等に含まれます。他の善玉菌を増やしたり、悪玉菌を抑えたりします。
- ビフィズス菌
大腸内で常在し、乳酸や酢酸を出します。ヨーグルト等に含まれるものもあります。腸内環境のバランスを整えたり、腸管運動をサポートする働きがあります。
- 酪酸菌
大腸内で常在し、酪酸や酢酸を出します。食品ではぬか漬けや臭豆腐に含まれます。
口から摂取しても芽胞という殻に包まれているので胃酸で死ぬことなく、生きて容易に腸まで届きます。
酪酸菌が増えると、炎症を抑える働きがあることが知られています。


食事など生活習慣を整え、このようなバランスを保つことがとても大切です。
また、1人1人が「エンテロタイプ」と呼ばれる、特徴的な腸内細菌バランスを持っていることもわかってきました。日本でもエンテロタイプ(腸内細菌のパターン)と食事の関係の調査が進んでいます。
大腸内の環境が良い
- おならは匂わない
- 便の色は黄土色~茶色
- 硬さは半練り状態
- 形ある便がプクプク浮く

大腸内の環境が悪い
- おならが臭い
- 便の色は黒っぽい
- コロコロ硬い、下痢
- 便が沈む

加齢とともに大腸の腸内フローラも変化していきます。老年期になると悪玉菌が多くなりやすいものです。悪玉菌の多い腸内環境は腸とカラダの状態を悪くします。善玉菌の多い腸内環境を目指すことが健康長寿のカギです。

年齢とともに移り変わる腸内細菌(模式図)
出展 : Mitsuoka T: Establishment of intestinal bacteriology,
Bioscience of Microbiota, Food and Health 33: 99-116, 2014
腸は、「第二の脳」と呼ばれるくらい重要な部位ってご存知ですか?
腸と脳は深い関わりがあるのです。
例えば、テストや人前で発表しなければいけない時等、緊張したりストレスを感じると、お腹が痛くなることがありますよね。
これは脳が腸にストレスの刺激を伝えているからです。
一方で、冷たい物を飲んだり、病原菌に感染したときに、お腹が痛くなり不安になることもありますよね。このようにお腹の状態がこころや行動も左右するのです。
腸は驚くほど精密にできており、休むことなく働いて指令をだしながら私達を支えてくれています。
腸を健康な状態に保つことは、こころにも良い影響を与えます。

腸には、1日3回、食事という形で異物が入り込んできます。病原菌やウイルスが入り込むこともあります。つまり、私たちの体の中で「内なる外である腸」は、環境からの異物に脅かされる危険と常に隣り合わせの状況にあります。
乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌など善玉菌を増やすことで腸内環境が守られます。乳酸菌は小腸で免疫システムの増進に関わると考えられています。酪酸菌は多くの腸内細菌がいるなかでも炎症を抑える働きがあるので、炎症を起こさないようにしてくれます。また、大腸では善玉菌の種類が多いほどうまく全体が共存し、良い環境を作り上げます。
このようにして腸内細菌のはたらきで支えられた免疫の機能は、感染抵抗性を高めたり、炎症を抑えることで病気のリスクを減らし、毎日を元気に過ごすための土台となっています。
内なる外である腸

風邪をひきやすくなった、風邪がなかなか治りにくい、花粉症がひどくなった等、年齢を重ねるごとに不調を感じることはありませんか?
それは「加齢」と「免疫力」に密接な関係があるからです。
年齢を重ねるにつれて感染症のリスクが高まることから、より頑強な免疫機能を体に備えておくことを考えなければいけません。
年齢を重ねるにつれて炎症レベルも上がってくることがわかっています。炎症を抑えるはたらきが落ちてくるからです。怪我が治りにくくなった、認知症が心配・・・こんな悩みも炎症を抑えるチカラと関係があることがわかってきました。腸ケアを始めることで免疫力を見直しましょう!!
免疫力が落ちる要因
- 加齢
- 内外のストレス
- 不規則な生活
- 栄養の偏り
- 睡眠不足
- 激しい運動
- 感染症
- 海外渡航 など
腸管免疫をサポートするためにも
生活習慣と食事で補い、免疫力を保ちましょう!

免疫力は20歳前後がピーク。その後加齢とともに低下する。免疫力は20歳前後がピーク。その後加齢とともに低下する。一方で、がん、感染症、生活習慣病、自己免疫疾患や認知症などの疾患リスクは加齢に伴い上昇する。
出典:東京医科歯科大学医学部名誉教授・株式会社健康ライフサイエンス代表取締役 廣川勝昱著「病気に強くなる免疫力アップ生活術」 「家の光協会、2008 年」
善玉菌をとる
味噌、漬物、ヨーグルト、チーズ等から善玉菌をとることが大事。
善玉菌のエサをとる
野菜、きのこ、海藻等から食物繊維やオリゴ糖をとることが大事
※オリゴ糖・・・きなこ、はちみつ、にんにく、いんげん、ごぼう、みそ、バナナなどに多い。
腸を動かして毎日よい便を出すため、適度な運動をこころがけることが大事。
